※この記事は2000年代半ばにアメリカ駐在をしていた時期に書いた記事です。20年前の記事なので情報は変わっている部分があることご理解ください。
ジョージ・ワシントンやリンカーンなど4人の大統領の肖像が刻まれた巨大な岩山。マウント・ラシュモアの名前は知らずとも、この情景を知らない人は日本人でもいないでしょう。5月の3連休を利用した今回の旅は、有名であっても日本からはなかなか来ない名所を回るのも一つのテーマ。とはいえゲートシティとなるラピッド・シティを中心にコンパクトに見所がまとまっており、充実した連休を過ごせました。
マウント・ラシュモア
空港で借りた四駆のSUVを駆りラピッド・シティから16号を南下、テーマパークのような古い田舎町キーストーンを抜けると、大統領の顔が刻まれた見慣れた岩山が遠方の森の上に見えてきます。最初はこんな程度かと思いますが、近づくにつれ岩山の巨大さが迫ってきます。駐車場からモニュメントの敷地に入ると、そこは何やら少々新興宗教の参拝施設の趣です。旗がたなびく参道を抜けると眼下にアリーナが広がるその向こうに肖像の刻まれた岩山が圧倒的な存在感でそそり立っています。ふもとには短いトレイルが整備されていて、森林の緑の中を散策しつつ青空に映える彫像を楽しめます。アリーナの脇にはレストランや土産物店の他、彫像の歴史をつづるミュージアム等も観覧できます。愛国心鼓舞の雰囲気で統一されているので好き嫌いはあると思いますが、やはり一見の価値は十分あると思います。
これに対抗して近郊にはスー族の英雄、クレージーホースを同じく岩山に彫り付けた巨大な彫像があります。完成すれば世界一だそうですが、正直言って入場料のわりにがっかりポイント。確かに巨大ですが、残念なことに近寄れないので巨大さを実感できませんでした。とはいえマウント・ラシュモアの愛国心に辟易しても、こんな対抗馬があったり、お土産屋にはマウント・ラシュモアを茶化すグッズもあったりと、民主主義の懐の深さやバランス感覚も味わえます。

カスター州立公園
州立公園ながら広い敷地の中で雄大な自然や野生動物たちの生態を眺めることのできる公園です。まずはマウント・ラシュモアから南下していくNeedles Hwyが見所です。くねくねと曲がる道はやがて奇岩に囲まれて細くなり、峠の岩にくりぬかれたトンネルは車一台がやっと通れる細さ。この辺りには奇岩を巡るトレイルも整備されているようなので、時間があればゆっくりするのも面白いと思います。道は16Aを交差して更に南へ。ここではMt. Coolidgeという標識に従って小さなピークに登ることをお勧めします。頂上は巨大なアンテナ群と小さな管理オフィスがあるのみ。とはいえ孤立したピークなので眺望は抜群。25セントで使える望遠鏡からは、今しがた通り抜けてきた峠の奇岩の数々や遠くマウント・ラシュモアまで臨むことができます。更に南下すると道はバッファローの群れや沢山のプレーリードッグの住む草原を走りぬけます。バッファローの大群の囲まれるとちょっと緊張します。大きくて真っ黒で迫力満点。逆にプレーリードッグはかわいくてたまりません。沢山ある穴から皆で顔を出し、近づくと警戒して本当に子犬のような声で吠え立てます。帰り道にはWildlife Loop Rdを走り抜けましょう。広々とした豊かな緑を湛えた草原にバッファローやバンビのような姿のプロングホーンの群れがたたずんでいます。公園の南にはウィンドケーブ国立公園が連なり世界第6位の洞窟が広がっています。ここはツアーでしか見学できないので、見学を希望する場合は早めに着くか事前の予約が必要です。



バットランズ国立公園
さて明らかに今回の旅行のハイライトのひとつであるバッドランズ国立公園。ここに関してはどのように記述すればよいか迷うところです。アメリカでも有名な国立公園でありながら、グランド・キャニオンのようなこの世のものとも思えない桁外れの景観があるわけでもなく、どこか中途半端な印象の国立公園です。それでいてとても魅力を感じる場所です。その理由は、コンパクトでありながら茫漠と広がっている荒野の風景を手に触れて味わえる点でしょう。公園のいたる所にトレイルが用意され、コンパクトでありながら荒々しい表情の岩山の中を、その空気を肌で感じながら歩き回ることができます。大半を削り取られて残った地層のわずかな断片が大地の歴史の標本のようにみえることから、かえって「大地創生の歴史を感じさせる」と言われるのかもしれません。
ラピッド・シティからはI90を東へ辿り、EXIT131から南下すると公園のゲートがあり、その少し先に見所となるトレイルが連なっています。一番のお勧めはNotch Trail。途中に急な階段、というよりははしごを上るような場所があり、その後は道とも思えない手摺もない壁の縁のようなところを歩いていくので注意が必要ですが、最後に到達するV字の崖から見渡す景色は最高です。(滑りやすそうなので雨の日は避けた方が無難です)この到達点を反対側から眺めるCliff Shelf Nature Trailも緑の中で自然を楽しめて気持ちの良いトレイルです。この近くにはVisitor Centerと夏の間だけ営業しているロッジがあり、昼食などを取ることもできます。もし時間が許して人里離れたこのロッジで夜を過ごす事ができればまさに心に残る体験になるでしょう。朝焼けや夕焼けの中の公園の景観も特別な出会いになると思います。周囲につながる長いトレイルを歩くことができれば、この近辺でも撮影されたと言う映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ」の情景にも遭遇できるかもしれません。ロッジから東に伸びるバッドランズ・ループを進むといくつものビュー・ポイントが並び、雄大な景色を楽しむことができます。Pinnaclesから北上するルートを取り公園から出ると、見学できたのは広大な公園のごく一部ですが、見所はこの辺りに集中しているので問題はありません。



そのままI90に向かうと、おまけの観光地としてウォールという小さな田舎町のメイン・ストリート片側全部を占める巨大ドラッグ・ストア「ウォール・ドラッグ」を見学することができます。ここは小さな田舎町で成功したケースとしてビジネススクールでも取り上げられる意外な面を持っています。

デッドウッドとSpeafish渓谷
バッドランズからデビルス・タワーへ行く道すがら夕食に寄ったのが、ゴールド・ラッシュ時代の宿場町の街並みを残したデッドウッドです。ここはギャンブルの街でもあり、メイン・ストリートの両側には小さなカジノが立ち並んでいます。遊ぶ金もない我々はここで10ドルだけ運試し。なにも無駄金を浪費せずとも、街並みを眺めるだけで価値のある街ではあります。

この後道に迷って入り込んだのがスペアフィッシュ渓谷でした。起点となるCheyenne Crossingに着いたのは既に夕刻でしたが、狭く深い渓谷に広がる緑が、傾いた日差しのさす青空に鮮やかに映えていました。道の脇に立つロッジのオープン・カフェはパーティーでもあったのか人であふれ、北欧の湖水地帯を思わせる別世界を形成していました。ここから北上する道は奥多摩をスケールアップしたような狭い渓谷が両側に迫りとても印象的な風景でした。今回は時間もなく通り抜けただけでしたが、時間が取れてゆっくりできれば印象に残る風景を心行くまで味わえると思います。

デビルス・タワー
ラピッド・シティ近郊の一番のハイライトはこのデビルス・タワーに尽きると思います。広い草原のなかに忽然と姿を現す264mの黒いタワーはなるほどインディアンの聖地、信仰の対象となるにふさわしい荘厳で特異な姿を見せています。古くは1906年にルーズベルト大統領によってNational Monumentの第一号に制定され、最近では映画「未知との遭遇」のクライマックスの舞台となり耳目を集めるところとなりました。遠くから見るとまるで巨大な剣が天から降ってきて柄まで突き刺さったよう。あるいはそれこそ宇宙人が外界からも見える標識として建てたようにも見えます。近寄ると直角にそそり立つ岩の柱を束ねたような形状で、ふもとから見上げるその独特の姿は、その生成の過程をいかに理屈で説明されても納得できない、まるで誰かが目的を持って造形したとしか思えないような不思議な雰囲気に満ちています。人気の観光地であるがゆえ、ゆっくりと楽しむには早朝の訪問をお勧めします。ふもとには小一時間で一周できるトレイルが整備され、圧倒的な質感を間近から味わうことができます。溌剌とした緑の中でトレイルを散策すると、朝日の中で様々な表情を見せる岩山をじっくりと楽しむことができます。休日ともなると沢山のロッククライマーが集い、その上ったり降りたりする様子を眺めるのも楽しみかもしれません。

ふもとの町サンダンスは本当に何も無いアメリカの田舎町です。街の端から端まで歩いても5分ほど。前日夜遅く到着した我々は一杯のビールを求めて町の端のバーに入りましたが。店の中は他に楽しみも無いのかビリヤードに興じる人で一杯。一杯飲んで外に出ると寂れた街の頭上、星空が印象的な田舎町でした。

ラピッド・シティ
ゲートシティのラピッド・シティはサウス・ダコタ州一の都会とはいえ田舎町の印象はぬぐえません。古くアメリカが西部にフロンティアを求めて進んでいた時期に中継地として栄えたものの、見るものは何もないと言うのが正直なところです。とはいえ東にバットランズ国立公園、南にマウント・ラシュモアやカスター州立公園、西にデビルス・タワーと車で2時間程度の範囲内に見所をいくつもかかえ、今回の旅の中心としては便利な街でした。繁華街はメイン・ストリートに集中しています。その中でたまたま入ったWine Cellarというイタリアン・レストランは雰囲気も上質かつ本格的なパスタを提供していてお勧めです。
こぼれ話
今回はデンバー経由でラピッド・シティに飛びましたが、空港は小さく、使用される航空機も30人乗りのプロペラ機でした。スチュワーデスも一人。颯爽と乗客の前に現れて案内を開始するスチュワーデス。ところが行き先を説明する段になり「bound for…」と言ったきり口をあわあわして客に行き先を教えてもらう始末。自分の行き先を知らないスチュワーデスは初めて見ました。すっかり人気者になった彼女は、その後の非常装置の説明で乗客の喝采を受けていました。
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